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未来の社会のためのグリーンエネルギー

気候変動と人口増加は、世界に喫緊の課題を突き付けています。ますます多くの人々が繁栄と発展を手に入れようとしている今、温室効果ガスによる地球温暖化はどうすれば食い止めることができるのでしょうか。言い換えれば、どうすれば気候を保護しながら、エネルギー消費の増加を許容できるのでしょうか。テクノロジーの視点で言えば、どちらも答えは一つ、「オール電化社会」のビジョンです。

Phoenix Contactは、このビジョンを10年目標として掲げ、経済・インフラのあらゆる部門の電化、ネットワーク化、自動化に対応する革新的な製品とソリューションを提供するグローバルメーカーです。

図1:気候変動と資源不足を考えれば、エネルギー革命が世界的に不可欠です。「オール電化社会」のビジョンは、現代のあらゆる主要な課題に対処します。気候変動との闘いと世界の繁栄を両立させるには、やはりカーボンニュートラルエネルギーが鍵を握るでしょう。

 

オール電化社会のビジョン

 

オール電化社会とは、十分な量のエネルギーをいつでも、どこでも、手ごろな価格で、個人、企業、社会のいずれの目的にも利用することができ、持続可能な方法で発展する世界を意味します。

このエネルギーは、地政学的な依存関係に左右されて、供給量が限られている石油、ガス、石炭といった化石燃料から生成されるのではなく、再生可能な資源、すなわち太陽光、風力、水力から気候変動に左右されない方法で生成されます。オレゴン州立大学の研究者によると[1]、太陽光発電の可能性だけでも、現在の太陽光技術を用いれば、将来にわたって地球全体のエネルギー需要をまかなうことが可能であり、しかも、そのために使用する土地面積は地球全体の1%未満であるとのことです。

ただし、エネルギー革命とオール電化社会の目標をすべて達成するのは、長い道のりになるでしょう。まずは、再生可能エネルギーの大規模な拡大と、セクターカップリングの技術的アプローチを展開する必要があります。

 

セクターカップリング

 

セクターカップリングの基本は、産業からエネルギー、モビリティ、インフラ、建物まで、私たちの生活と経済に関連するあらゆる分野を包括的に電化、ネットワーク化、自動化することです。これらのセクターは長年別々に考えられ、互いにほとんど独立して構成されてきました。オール電化社会では、各部門を連携させ、インテリジェントに自動化する自己制御システムを構築します。各部門はそれぞれのニーズを認識するだけでなく、周囲のニーズにも対応します。そうすることで、すべてのエネルギー負荷、生産者、貯蔵システムのバランスを最適化し、効率化と省エネを実現します。

図2:セクターカップリング、すなわち、適切なインフラを使用した産業、モビリティ、建物のインテリジェントな統合は、再生可能エネルギーの包括的な利用と気候ニュートラルな社会への移行を促進します。

その時にエネルギーを必要とする場所で、利用可能なエネルギーを動的に利用することができます。余ったエネルギーは貯蔵し、後で必要に応じて使用できます。負荷を制御できれば、送電網のバランスを取り、不安定な再生可能エネルギーを効率的に利用できるようになります。つまり、セクターカップリングを行えば、風の強さや日照量に関係なく、発電ピークと負荷ピークは平滑化され、大量の余剰容量がなくても、電源の安定性と可用性を確保できるようになります。ここで重要なのがエネルギー貯蔵システムです。これがセクターカップリングの核となる要素です。

 

オール電化社会におけるエネルギー貯蔵システムの役割

 

太陽光、風力、水力で安定した電源を確保する唯一の方法は、十分な規模と信頼性を備えた貯蔵システムによって再生可能エネルギー源の変動性を補うことです。この目的にどのシステムと技術が最適であるかは、主に必要な貯蔵容量、電力、期間によって決まります。

図3:既知のエネルギー貯蔵技術に最も適したアプリケーション分野は、エネルギー供給が可能な期間、および技術的、経済的に実現可能な貯蔵容量によって決まります。

電気エネルギーを一時的に貯蔵し、異なる時間や場所で利用可能にする技術はいろいろあります。各貯蔵技術の主な違いは物理的原理にあります。機械的貯蔵システムでは、電気エネルギーを機械的エネルギー(力学的エネルギー)に変換し、またその逆に変換します。機械的エネルギーは、位置エネルギーまたは運動エネルギーです。純粋な蓄電システムには、電荷をコンデンサかスーパーキャパシタに貯蔵するものと、電流を大型コイルかインダクタに貯蔵するものがあります。電気化学的貯蔵システムは、さまざまな材料の電気化学ポテンシャルの差を利用し、適切な電解質とセパレータを用いて、電気エネルギーをバッテリに貯蔵します。純粋な化学貯蔵では、電気エネルギーを使って化学反応を起こし、高エネルギーの液体やガスを生成します。そして逆反応を経て、エネルギーを電気として再び放出します。別の貯蔵技術として、蓄熱があります。蓄熱では、電気エネルギーを利用して適切な貯蔵媒体で熱を生成し、 逆のプロセスでは、熱を使って発電機を駆動させます。

 

エネルギー貯蔵技術

 

位置エネルギーに基づく機械的エネルギー貯蔵システムの商業用途には、例えば揚水発電所と重力蓄電があります。機械的エネルギー貯蔵技術には、他にも圧縮空気貯蔵やフライホイール貯蔵があります。前者はバネの、後者は回転の物理的原理を利用します。

機械的エネルギー貯蔵システムの欠点は、容積および重量単位当たりのエネルギー密度が低いことです。投資コストも比較的高いですが、一般に低コストで運用できます。短期的な貯蔵ソリューションとしてよく使用されます。

純粋な電気エネルギー貯蔵デバイスとして最も知られているのはコンデンサです。コンデンサを組み合わせて大きな蓄電池を作れば、エネルギー量をメガワット時規模まで高めることができます。コンデンサやスーパーキャパシタの最大の長所は、ごく短時間で非常に大量のエネルギーを充放電できることです。周期的安定性も非常に優れています。ただし、価格が高く、エネルギー密度が低いことが、産業規模で採用する際の障壁になっています。

誘導エネルギー貯蔵システムは、純粋な電気エネルギー貯蔵システムとしては二次的な存在で、深冷超電導コイルをベースとし、高い充放電能力も可能です。ただし、エネルギー密度が非常に低く、冷却が必要なため運転コストがかかります。そのため極端な電力ピークがある特殊なアプリケーションでしか使われていません。

バッテリは従来からある電気化学エネルギー貯蔵装置です。バッテリにはさまざまな種類があり、使用される電極材料によって特徴が大きく異なります。例えば、鉛酸電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル水素電池、ナトリウム塩化ニッケル電池(ZEBRA電池)のほか、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池があります。

図4:ユーティリティ規模貯蔵システムの典型的な構造。各バッテリモジュールは相互接続されて大きなユニットを形成し、耐候性のコンテナに配置されます。これらはパワーエレクトロニクスによって外部のグリッドに接続されています。中央制御装置が機能を監視・制御します。

近年、幅広いバッテリアプリケーションで定着してるのがリチウムイオンバッテリです。eモビリティと定置型アプリケーションの両市場におけるシェアは90%を超えます。これは容積と重量単位当たりのエネルギー密度が高く、周期安定性に優れているためです。

定置型アプリケーションでは、リチウムイオンバッテリが優勢ながら、投資コストが安いレドックスフロー電池も引き続き善戦しています。このタイプのバッテリでは、電解液は電極から分離されてタンクに貯蔵されます。動作中、電解液はポンプによって電極に供給されます。この方法では、タンクの容量を大きくすれば、簡単にバッテリの容量を増やすことができます。一方、バッテリの電力は電極の表面積を増やすことで増加します。

レドックスフロー電池は、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池よりもエネルギー密度が著しく低く、運用方法により大幅な運用コストと効率損失が発生します。

純粋な化学エネルギー貯蔵システムで最も広く使われているのは、水素を利用する技術です。この技術では、電気エネルギーを使って化学結合から水素を放出します。再生可能エネルギーを使用し、二酸化炭素を排出せずに作られた水素は、グリーン水素と呼ばれます。水素はエネルギーキャリアとして直接使用することも、さらに加工することも可能です。二酸化炭素や窒素と組み合わせた化学反応では、メタン、メタノール、灯油、アンモニアなど、高エネルギーなガスや液体を生成することができます。これはパワー・ツー・エックス(Power-to-X)とも呼ばれ、グリーン水素が出発化学物質の場合、Xはガスまたは液体を表します。

図5:再生可能エネルギーを利用した水素の生産は、エネルギー革命の中心的存在。

この方法で生産した燃料は、化石燃料と同じような方法で貯蔵、輸送、使用が可能です。現在、この目的で、パイプラインなど既存のインフラを改良するための集中的な作業が進められています。e燃料(e-fuel)と呼ばれるこうした合成燃料は、例えばモビリティ部門で使用されています。水素とそこから生成される合成ガスは、(プロセス)熱の生成や化学・薬品産業の原材料として使用されるほか、 燃料電池で貯蔵エネルギーを電気に再変換する際にも使用されます。

 

水素プロセスチェーンの効率損失

 

グリーン水素の生成には水電解が使用されます。水電解では電気の力を使って、水を水素と酸素に分解します。この2種類の気体は、化学反応器の二つ電極から別々に抽出されます。グリーン水素をさらに加工して上述のような高品位の燃料を作るには、より多くのエネルギーが必要です。最終生成物から取り出して再利用できるのは、このエネルギーのほんの一部です。電気分解から水素、そして最終的なエネルギーキャリアに至るまでに必要な変換ステップが増えるほど、通常、廃熱という形で発生するエネルギー損失が大きくなります。こうした損失を他の目的に活用できなければ、全体的なプロセスの効率は低下します。

 

カップリングにはどの貯蔵システムが適しているか?

 

したがって、太陽、風力、水力の電気エネルギーは、できる限り直接利用するのが理に適っています。変換するたびに効率損失が生じ、必要な発電容量も必然的に増加します。エネルギー革命を成功させ、気候変動を抑制するには、可能な限りあらゆる部門を電化することが極めて重要なのです。

再生可能エネルギーは継続的に利用できず、限られた範囲でしか制御できないため、電気エネルギーの貯蔵が不可欠です。バッテリ貯蔵システムは、ギガワット時規模の電力量を数ミリ秒から数日間にわたり貯蔵する方法として好ましい方法です。急速かつ柔軟にエネルギーを吸収し、グリッドに戻すことで、電力のバランスを取り、ピーク時の需要を補うことができます。

例えば、再生可能エネルギー発電の季節的変動を補うなど、数週間または数カ月にわたり余剰エネルギーを貯蔵する場合、水素を利用したプロセスが推奨されています。

さらに、技術的または経済的な理由から、電気エネルギーで動作できない、もしくはまだ実用化されていないアプリケーションも多数存在します。例えば、工業部門では、鉄鋼やセメントの生産、 モビリティ部門では、長距離の大量輸送がそうです。これには長距離の航空輸送、トラックや船舶による長距離輸送が含まれます。このようなアプリケーションにおいても、水素と水素派生物が現在の最先端技術に基づく最善の方法です。

 

エネルギー貯蔵アプリケーション

 

わかりやすい例として、自動車のバッテリ利用を見てみましょう。バッテリに貯蔵された電気エネルギーは、自動車の電気モーターやすべての補助装置を作動させるために使用されます。水素自動車では、エネルギーキャリアは内燃エンジンの燃料として使用できます。あるいは、水素を燃料電池の電源として使用し、最終的には再び純粋な電気駆動になります。この場合、電力ピークを補い、システムに戻ったエネルギーを吸収するには、はるかに小さいものでも、バッテリが必要になります。燃料電池は定負荷時に特に効率的に動作します。

モビリティ部門の充電インフラでは、バッテリは高い充電電力を処理し、配電網の負荷を軽減することで急速充電に対応できます。

定置型エネルギー貯蔵システムの重要なアプリケーションには、公共配電網の起動(ブラックスタート)と安定化、工場稼働時のピーク負荷の抑制、無停電電源、公共配電網に接続されていない島内送電網の運用、再生可能エネルギーキャリアの変動のバランス化などがあります。電力取引は商業的に重要性を増しています。生産者価格が低いときにエネルギーを貯蔵しておけば、エネルギー需要が高いときに提供し、利益を得ることができます。

 

まとめ

 

日常生活の中で電気エネルギーはますます存在感を高めています。最近よく目にするようになった電気自動車だけではありません。建設現場の車両も電化され、騒音が大幅に減り、排出量も低下しました。電気で動く機械は、鉱業だけでなく、農業や林業にも広がっています。ヒートポンプや赤外線ラジエータを利用した電気暖房の普及も進んでいます。その他にも例はまだまだあり、オール電化社会のビジョンが現実となる日もそう遠くはなさそうです。こうしたアプローチによって、私たちは気候変動を食い止め、限りある化石燃料への依存を終わらせることができるのです。

 

執筆者

 

 

Dr. Rüdiger Meyer(Phoenix Contact エネルギー貯蔵システム専門家)

1995年までアーヘン工科大学で電気工学(Dipl.-Ing. Elektrotechnik)を学び、ハーメルン太陽エネルギー研究所(ISFH)で研究者として勤務。2000年まで同機関に所属しながら高効率シリコン太陽電池分野で博士論文を執筆し、ハノーファー大学で工学博士号を取得する。フランクフルト/マインにてContinental Tevesの未来開発部で2002年までドライブ・バイ・ワイヤ・システムのエネルギー貯蔵ソリューションを開発。その後、ISFH研究所のシリコン太陽電池開発グループの責任者となり、高効率シリコン太陽電池を開発。2007年、ホルツミンデンのStiebel Eltronに移り、太陽電池とPVモジュール事業を設立。2012年、Phoenix Contactに新エネルギー接続技術製品管理グループ長として入社。2020年5月、Phoenix Contactのビジネス部門デバイスコネクタのエネルギー貯蔵アプリケーション・エキスパートに就任。2022年10月、エネルギー貯蔵スペシャリスト(VDE/DGS)に就任。エネルギー貯蔵に関する複数の国際標準化委員会および業界団体に所属。

 

参考資料

 

[1] Adeh EH、Good SP、Calaf M、Higgins CW。Solar PV Power Potential is Greatest Over Croplands. Sci Rep. 2019 Aug 7;9(1):11442. doi: 10.1038/s41598-019-47803-3. PMID: 31391497; PMCID: PMC6685942.+