RISC-Vはエッジ機械学習(ML)推進のカギに
高電力効率なRISC-Vプロセッサが機械学習をクラウドからエッジに移行

機械学習(ML)を導入すると、誰もがすぐにクラウドのデータストレージと処理には高額なコストがかかることに気づきます。これまで企業の多くは、MLのワークロードをホストするインフラを自社運用することで、このコストを抑えようとしてきました。それでも、規模が大きくなると、ローカルデータセンターの消費電力が増加するなど、さまざまなトレードオフが生じてきます。この措置だけでも、光熱費の増大や機器の熱管理問題を招くことになり、持続可能性の取り組みに影響を与えます。
クラウドでも自社運用でも、コストは中央ハブに収集されるデータ量に直接関係しています。ですから、この解決策は、エッジコンピューティングシステムを使用して、できるだけデータ取得地点の近くで入力データを分析し、データが中央ハブに到達する前にできるだけ多くのデータをフィルタリングすることです。
もちろん、エッジコンピューティングシステムは、それ自体が電力効率に優れ、スイッチングを保証するものでなければなりません。新世代のRISC-Vプロセッサは、他の命令セットアーキテクチャ(ISA)ベースのデバイスに比べて、単位性能あたりの電力効率が3倍高くなっています。
エッジMLにおけるRISC-V:少ない命令数、少ない消費電力
MLとエッジコンピューティングの融合により、自律的な意思決定とリアルタイムの対応が可能なスマートデバイスが実現します。この種のデータ処理階層に対する需要に伴い、RISC-Vプロセッサテクノロジーは進化し、すでに以下のようなコネクテッドエッジアプリケーションで採用されています:
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ウェアラブル:RISC-Vプロセッサを搭載したフィットネストラッカは、デバイス上で活動認識と健康モニタリングを行い、リアルタイムでパーソナライズされたインサイトとユーザーフィードバックを提供します。
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スマートビルディング:RISC-Vプロセッサは、ビルディングオートメーションデバイスを強化し、リアルタイムの物体検出、異常認識、インテリジェントな自動化やセキュリティ機能を実行します。
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ロボット:RISC-Vプロセッサを搭載した産業用ロボットは、リアルタイムの画像処理と物体検出を行うことで、時々刻々と変化する環境に応じて、複雑なタスクを自律的に実行することができます。
RISC-Vは、そのオープンで標準化されたISAと、エッジデバイスへの複雑なAIアルゴリズムの実装を合理化する計算効率により、このようなユースケースを進化させる上でこれからも重要な役割を果たすでしょう。この効率性は、RISC-Vアーキテクチャの最も基本的な構成要素である命令セットによるものです。
RISC-Vは、整数命令の基本セット(RV32IまたはRV64I)を特徴とする簡素化されたISAに基づいており、プロセッサ設計者がさまざまなユースケースに応じて追加できるオプションの拡張機能を備えています。2つの重要な拡張機能により、RISC-VプロセッサでのML演算が大幅に向上します:
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ベクトル拡張(V):この拡張機能は、効率的な行列乗算に不可欠なベクトル演算と、多くの ML アルゴリズムの基本的な演算をサポートします。ベクトル拡張により、プロセッサが複数のデータ要素に対して複数の演算を同時に実行できるようになり、パフォーマンスが大幅に向上します。
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圧縮拡張(C):この拡張機能では、エンコードに必要なビット数が少ない圧縮命令を導入するため、コードサイズが小さくなり、メモリフットプリントも小さくなります。これは、メモリリソースが限られているエッジデバイスにとって特に有益です。
これらの拡張機能を組み合わせることで、RISC-VプロセッサはMLワークロードの実行において高いパフォーマンスと高い電力効率を実現します。RISC-VプロセッサIP企業であるSiFive社は、ベクトル拡張やその他のマイクロアーキテクチャのイノベーションを活用して、競合ソリューションよりも30~40%優れた電力効率を実現しています。[1]
実際、調査によると、RISC-Vデバイスは、1命令を実行するのに必要な平均クロックサイクル数を示すCPI(cycles per instruction)において、既存のほとんどの命令セットアーキテクチャを常に上回っています。[2] これらのテストにより、RISC-Vデバイスが熱効率を維持しながら、複雑なMLタスクを長時間実行できることが明らかになりました。
エッジMLのためのRISC-Vエコシステムとツール
RISC-Vのモジュール型ISAは、コンパクトでエネルギー効率の高いプロセッサを開発する際に特に利点があります。命令セットはわかりやすく、設計の最適化、チップ設計や検証にかかる時間の短縮、コストの削減、そしてもちろん消費電力の削減に貢献します。
エンド システムでこうした利点をすべて実現できるかどうかは、最終的には開発者にかかっていますが、エッジコンピューティング環境でRISC-Vテクノロジーの採用が急速に進んでいるのは、オープンな標準ベースのプロセッサハードウェアを取り巻くソフトウェアとツールのエコシステムが同時に成長しているためです。
LLVMやGCCのような一般的なコンパイラは、現在どちらもRISC-Vをサポートしています。これにより、ISA拡張機能が使用されている場合でも、生成されたコードはターゲットプロセッサに最適化されます。また、TensorFlowやPyTorchなどの標準的なフレームワークはRISC-Vに移植され、組み込みソフトウェア企業は独自のMLライブラリ、フレームワーク、ミドルウェアを提供しています。
例えば、AntmicroとGoogle Researchは、RISC-VベースのエッジMLアプリケーション向けのラピッドプロトタイピングおよびプレシリコン開発ソリューションで提携しましたが、このソリューションは、AntmicroのRenodeシミュレーションフレームワークとGoogle ResearchのKenningベアメタルランタイムで構成されています(図1)。この共同ソリューションにより、シミュレーションされたRISC-Vハードウェア上でMLモデルを実行することで、エンジニアリングライフサイクルを加速することができます。また、最終的には、高価なシリコン製造を開始する前に、技術スタック全体を評価し、最適化することが可能になります。

図1: このRISC-Vシミュレーションフレームワークは、AntmicroとGoogle Researchの共同開発によるもので、ML開発を加速するハードウェア/ソフトウェアの共同設計フローを提供します。(出典:執筆者)
もちろん、RISC-VにもML開発ツールにも、まだまだ改善の余地があります。これらのエコシステムが並行して進化していく中で、以下のような克服すべき課題もまだ残っています:
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成熟度:RISC-Vのエコシステムは、確立されたアーキテクチャに比べて比較的新しいものです。そのため、経験豊富な開発者のコミュニテがまだ小さく、利用できるツールやライブラリがあまり充実していません。
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標準化問題:RISC-V Internationalは、サプライヤー間の協力とイノベーションの基盤を提供しますが、オープンなエコシステムでは実装の多様性が求められます。そのため、アーキテクチャの断片化や互換性の問題が常に発生する可能性があります。スムーズで統一された開発プロセスを維持するためには、継続的な標準化への取り組みが不可欠です。
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ハードウェアの入手可能性:MLタスク用に最適化された市販のRISC-Vプロセッサの市場はまだ限られています。しかし、需要が増加するにつれて、ハードウェアの状況も進展し、規模も拡大するでしょう。
これらの課題に対処するには、業界リーダー、研究機関、オープンソースコミュニティからの協力と投資が必要です。業界やオープンソースコミュニティ、オープンスタンダードコミュニティは引き続きRISC-Vエコシステムへの投資を続け、今後もRISC-Vテクノロジーはエネルギー効率の高いエッジアプリケーションに活用されてゆくでしょう。
エッジ機械学習の未来を創るRISC-V
実装の観点から見ると、縮小命令セットコンピュータ(RISC)か、複合命令セットコンピュータ(CISC)かという論争は、もはや過去のものです。CPUの効率と性能は、今ではマイクロアーキテクチャによって決まり、マイクロアーキテクチャはISAと、物理的なチップの製造に使用されるプロセスノードによって実現します。
RISC-VとエッジML市場が進化するにつれて、ハードウェアの技術革新が進み、用途に特化したRISC-Vプロセッサが登場するはずです。これらのプロセッサには、専用のアクセラレータ、最適化されたメモリアーキテクチャのほか、MLワークロード実行時の全体的なパフォーマンスと効率を向上させる各種機能も搭載されるでしょう。
このような機能の拡充により、RISC-Vを搭載したエッジデバイスのアプリケーション領域はさらに広がり、スマートホームやヘルスケアデバイスから産業用オートメーションシステムや自動運転車に至るまで、あらゆる分野への導入が可能になります。このように、RISC-V ベースのプロセッサ技術は、その適用範囲が非常に広いため、今後もスマートなコネクテッドエッジMLシステムの基本的な構成要素としての役割を果たし続けるでしょう。この傾向は、さまざまな分野の実際のアプリケーションですでに定着しています。
RISC-Vエコシステムが成熟を続け、開発者がこのアーキテクチャに精通するにつれ、さらに革新的なアプリケーションが登場し、可能性の限界を押し広げてゆくことでしょう。未来は、インテリジェントで相互接続された、高効率なイノベーションの時代になります。
出典
[1] SiFive website, n.d., accessed February 16, 2024, https://www.sifive.com/.
[2]Wajid Ali."Exploring Instruction Set Architectural Variations: x86, ARM, and RISC-V in Compute-Intensive Applications," Engineering:Open Access 1, no.3, (2023):157-162.