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航空宇宙分野におけるナノテクノロジーの可能性

(画像:muratart - stock.adobe.com)

ナノ材料は、サイズの小ささ、軽量性、その他の優れた特性から、特に高性能な機械的特性が求められる自動車、航空宇宙産業を中心に、これまで多くのハイテク業界から注目されてきました。航空宇宙への投資が拡大する今、多くのナノ材料メーカーは航空宇宙業界と協業し、ナノ材料を活用して航空機の部品やシステムの改良に取り組んでいます。

航空宇宙への関心と投資が高まり、これからもイノベーションが求められていることを考えると、ナノ材料が航空機に広く使用されるようになるのはそう遠いことではないでしょう。ここでは、新たに出現した重要な分野と、ナノ材料の可能性が最も期待できる分野についてご紹介します。

軽量化と機械的特性の向上

航空宇宙産業、そしてあらゆる輸送産業において、軽量化は安全性と安定性に次いで、材料に求められる最も重要な特性の1つです。航空宇宙産業では、機体のフレームや部品の機械的完全性を損なうことなく、むしろ向上させながら、絶えず航空機の軽量化に努めています。機体が軽ければ、燃料も少なくて済みます。燃料が少なくて済めば、二酸化炭素排出量を削減し、燃費の改善にもつながります。そればかりか、1回のフライトにかかるコストも削減できます。

長年にわたり、航空機は軽量化を重ねてきましたが、ナノ材料の軽量性によって今よりももっと軽い航空機の出現が期待できます。複合材料(コンポジット)は、航空機のフレームによく使われています。この複合材料にナノ材料を組み込むことで、機体や内部コンポーネントの剛性、強度、堅牢性を高めながら、機体をさらに軽量化できます。機械的特性の向上のほかにも、ナノ材料を組み込むことで、機体の熱伝導性と熱耐久性の向上も期待できます。

ナノ材料を使用する主なメリットの1つは、複合材料にそれほどの量のナノ材料を使わなくても効果があるということです。通常、数wt%、場合によっては1wt%未満でも効果が認められます。このように少量のナノ材料を使用することで、同じ機能を果たすのに必要な材料の量を減らすこともできます。そのため、より軽量な添加剤を使用するだけでなく、材料を削減することにより、相乗効果的に航空機の重量を削減することができるのです。

また、ナノ材料の可能性には従来の複合材料を超えるものもあります。近年、積層造形法を使用した、高温領域のエンジン部品(金属合金)の開発や3Dプリンタによる複合材成形に注目が集まっています。ナノ材料の3Dプリンタ向け熱可塑性樹脂への組み込みは、その可能性が大きく期待されています。これにより、航空機の重要部品と非重要部品の両方、特に小さくて複雑な部品を、その機械的特性と摩耗特性を損なうことなく、より低コストで迅速に交換することが可能になるからです。

さまざまな保護性能の向上

ナノ材料は、飛行する際の過酷な要素や飛行中に影響を与えるさまざまな要因から航空機を保護する可能性を秘めています。多くのナノ材料は、優れた導電性、放熱性、または絶縁性(材料と用途によって異なる)とともに、優れた安定性を備えています。ナノ材料を航空機メインフレームの複合材料構造に組み込むか、機体の表面に保護バリアコーティングを施すことで、外的危険を直接遮断または消散させることができ、航空機を保護することができます。

航空機に影響を与える可能性のある外的危険性の一例として、雷が挙げられます。航空機は、常に落雷のリスクに曝されており、特に主翼への落雷は、エネルギーがうまく消散できなければ、航空機に深刻な構造的損傷を与える可能性があります。しかし、その主翼にグラフェンなどの導電性に優れたナノ材料を組み込むか、コーティングすれば、落雷によるエネルギーを電気的に消散させる軽量のソリューションになります。多くの航空機では、雷を逃すために重い金属構造が使用されていますが、もっと複合材料を使用しようという動きもあります。ですから、ナノ材料は、現在の金属構造に置き換わる軽量な導電性複合材料の開発につながる可能性を秘めています。

また、航空機の重要な部品にナノ材料を使用すれば、部品や外部表面全般に氷が蓄積されるのを防ぎます。軽量化のほかにも、ナノ材料をさまざまな部品に加えることで、加熱サイクル中の熱機械的ストレスを緩和し、効率の向上、消費電力の低減が可能になります。ナノ材料固有の安定性とその結果生まれる安定した複合構造は、氷の蓄積を防ぎ、重要部品を保護し、航空機の空力失速を防ぐのに役立ちます。

多くのナノ材料は、特に無機材料や、グラフェンのような一部の有機材料には、温度耐性が高く、高温でも壊れることがありません。このような材料を他の材料に組み込めば、航空機に使用されているさまざまな樹脂や、内装に使われている繊維などの材料に難燃性が生まれます。耐火性の向上のほかにも、ナノ材料を他の材料に組み込むことで、火災時に発生する有毒ガスのレベルを抑えることもできます。

また、航空機の機体や構造部品にナノ材料を添加することで、航空機内部の振動を抑制することができます。これにより、機体の外からの騒音も低減できます。

以上に述べた保護機能のほかにも、多くのナノ材料が固有の強度、機械特性、安定性を備えていることは、航空機にその他の保護性能ももたらすことができることを意味します。例えば、電磁干渉(EMI)や紫外線(UV)に対する耐性、耐腐食性の向上などです。

センサとモニタリングシステム

航空機にはセンサが不可欠です。航空機のセンサは、燃料残量から機内温度、機外環境、さらにはエンジンンを各面から測定し、すべてが正常に機能していることを確認します。飛行する高度や条件、民間航空機の内部要因を考えると、センサは、重要なシステムがすべて最適な状態で安全に機能しているかを監視し、確認する上で、航空宇宙分野では不可欠な技術であることがわかります。

航空宇宙用センサにナノ材料を使用することは有益であることが実証されています。センサにナノ材料を使用することで、感度の高いセンサを開発することができます。その感度は、能動検知表面に正しい材料を使用していれば、大型センサの精度に匹敵するか、それを上回る可能性があります。ナノ材料が軽量であるため、極めて小型でありながら高効率のセンサが開発できます。航空宇宙アプリケーションの場合、これには2つの重要なメリットがあります。

  • ナノ材料により、センサをより小型化できるため、航空宇宙業界では、各種航空機システムに多くのセンサを搭載し、多くのパラメータを監視することで、航空機システム全体の安全性と最適化を向上させることができます。
  • ナノセンサは通常のセンサよりもはるかに小さいため、その分軽量です。軽量性が鍵となる航空機にとって、ナノ材料は機体に使用されているセンサの重量の削減につながり、航空機の燃費や消費燃料にプラスの効果をもたらします。
  • 従来の監視ベースのセンサのほかに、ナノ材料は航空機の前部に設置されたハイパースペクトルカメラにも潜在的な利点をもたらします。ナノ材料によって強化されたハイパースペクトルカメラは、多くのナノ材料が持つ広い電磁波スペクトル帯域を利用し、可視光、近赤外線(NIR)、短波長赤外線(SWIR)、長波長赤外線(LWIR)の波長を検出し、悪天候や視界が悪い状況でも効果的な検出能力を発揮することができます。

まとめ

ナノ材料のサイズの小ささ、軽量性、安定性、および高導電性などの特性は、ナノ材料を既存の複合材料、コーティング、電子デバイスに組み込むことで、航空宇宙産業の多くの領域でメリットをもたらすことを意味します。これには、航空機の軽量化、風雨に対する保護、機体に搭載されたさまざまな感知・監視装置などが挙げられます。

航空宇宙へのナノ材料活用に対して投資とイノベーションが引き続き行われれば、ナノ材料が広い範囲で使用されるようになるのもそう遠くはないでしょう。航空機へのナノ材料の活用がますます進むことが、これからも期待できそうです。