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インダストリー5.0とサーキュラーエコノミー(循環型経済)

 

この10年の間、製造・産業分野に携わってきた人なら、「インダストリー4.0」という言葉をおそらく何度も耳にしてきたことでしょう。インダストリー4.0とは、ごく簡単に言えば、ロボットや機械学習など、現代のさまざまな先進テクノロジーを活用し、製造現場に応用する取り組みです。

インダストリー4.0の目標は、工場の生産性と効率性を向上させ、より安く、より高品質で、より消費者の手に届きやすい商品を生産することでした。ところが、インダストリー4.0は製造分野に大きな改善と変革をもたらしたものの、さまざまな意味で重要な的を外していました。残念ながら、テクノロジーばかりに目を向けていたため、人間にとっての真の目標を見逃していたのです。

インダストリー4.0が普及しつつある今、産業分野の次なる大きな変革の動きとして、インダストリー5.0が登場しようとしています。まだほんの黎明期にすぎませんが、正しく取り組めば、真の革命につながるはずです。

インダストリー5.0はまだ発展の途上ですが、インダストリー4.0に欠けていたこと、本当に必要なことを実現できる、そんなチャンスを私たちは今、手にしています。インダストリー4.0から学んだ教訓を活かして、インダストリー5.0をよりよい世界の実現に貢献できるものにしていきましょう。

 

インダストリー4.0:その概要

 

製造業は歴史を通じ、主に度重なる「革命」によって発展を遂げてきました。インダストリー4.0は、こうした革命の中で最も新しいものです。

当初、インダストリー4.0とは、テクノロジーの導入によってドイツの製造業のあり方を改善するというドイツ政府による国家戦略構想でした。具体的には、インダストリー4.0構想は、工場のデジタル化を進め、製造現場により多くのデータを投入し、工場機器の相互接続を推進することを目的としていました。今日、インダストリー4.0は製造・産業分野で広く採用されています。

中でも、インダストリー4.0の成長を可能にしたのがビッグデータです。今日の製造現場には、産業機器や製造工程の状態を監視するセンサが多数搭載されており、工場の状態を「見える化」し、優れた洞察を工場運営者に提供します。その一環として、工場の機器の多くは、リアルタイムでデータを共有し通信するために、ネットワークで相互接続されています。

 

インダストリー5.0:次なる産業革命

 

インダストリー4.0は先端技術を統合して効率を高めることには成功しましたが、世界を変革するには至らなかったことに私たちは気づきました。そこで、次の大きな産業革命として注目されているのが、インダストリー5.0です。

ごく大まかに言えば、インダストリー5.0とは、人間と先端技術の融合を深化させ、産業分野におけるイノベーション、生産性、持続可能性を推進するための新しいコンセプトです。インダストリー4.0による進歩を土台に、人間を中心とした考え方を取り入れ、人間と機械の両方の強みを融合させることを目指しています。

基本的にインダストリー5.0は、自動化とデジタル化が産業プロセスに革命をもたらしたことを認めつつも、人間こそが、創造性、批判的思考、問題解決、感情的知性といった独自の資質を持ち、さらには、イノベーションを起こし、複雑な課題に対応する上でかけがえのない存在であると考えます。インダストリー5.0は、人間を機械に置き換えるのではなく、こうした人間の資質を活かし、先進技術の力と組み合わせることで、より生産的で包括的な産業エコシステムを作り出すことを目指しています。

正しく取り組めば、インダストリー5.0は、産業分野がかつて経験したことのない規模の産業革命になるはずです。ただし、そのためにはインダストリー4.0から学んだ教訓を活かす必要があります。

 

人間を中心としたアプローチ

 

インダストリー4.0の重大な欠点の1つは、技術的側面ばかりに焦点を当て、人間的側面に十分な注意を払ってこなかったことです。テクノロジーは素晴らしいものですが、結局のところツールに過ぎません。真の変革を起こすには、インダストリー5.0は製造に関して人間を中心としたアプローチをとる必要があります。

インダストリー5.0は、設計の視点を変えることで、「人間的」な要素をテクノロジーに取り入れることができます。インダストリー4.0では、テクノロジーが何よりも尊重され、人間による介入や協力はないがしろにされてきました。例えば、多くの工場では、自動産業機器の置かれた区域は、安全上の配慮から、人間のいる場所から完全に隔離されていました。このテクノロジーを中心とした設計思想では、新しいテクノロジーによって大きな影響を受けるのは、工場で働く人間であることを考慮していません。

ですから、インダストリー5.0は人間と機械の協働という考え方を重視しています。例えば、協働ロボットは、人間と一体となって安全かつ生産的に働くよう設計されています。このような人間中心のアプローチをとることで、インダストリー5.0は、インダストリー4.0では叶えられなかった人間と機械との協働、創造性、意思決定の改善を実現しています。

単なる設計だけではなく、インダストリー5.0は、消費者を理解するためにも人間中心のコンセプトを大切にしています。世界は、消費者の動向やサプライチェーンでも大きな転換を迎えています。例えば、消費者行動のトレンドのひとつとして、カスタマイズされ個別化された製品に対する需要の増加が挙げられます。残念ながら、製造業はこうした変化に対応できていないことが多く、時々刻々と変化する消費者の要求に応えることができません。

ですから、インダストリー5.0がその期待に応えるためには、消費者行動に対して人間中心のアプローチをとらなければなりません。工場運営者は、効率を向上するにはどのようなテクノロジーを導入するかを考えるだけでなく、消費者が何を求めているのか、その要求に応えるにはどのようなテクノロジーを導入すべきなのかを考える必要があります。

その考え方の違いはわずかに見えますが、もたらす影響は大きいのです。

 

サーキュラーエコノミー(循環型経済)

 

インダストリー4.0で達成できなかった大きな要因の1つは、全般的に、持続可能性を考慮に入れていなかったことです。

工場の効率化が進めば生産量が増え、持続可能性が高まると考えられるかもしれませんが、多くの場合、インダストリー4.0の根底にあるプロセスや考え方は持続可能性からはほど遠いものです。結局のところ、インダストリー4.0の欠点は、持続可能性の視点から見ると、循環型経済(サーキュラーエコノミー)に対する意識の欠如であると言えます。

今日の製造業では、原材料の調達から、商品の製造、消費、廃棄までを行います。このオープンループのシステムでは本質的に持続可能性は達成できません。大量の材料は再利用して経済に還元できる(すなわち循環型経済)にもかかわらず、材料は無駄にされ、埋立地に投棄されています。今日、従来の直線的な生産モデルから、より循環型のモデルに移行することが切実に求められています。

より循環型の生産モデルを実現するための重要な鍵は、社内の部署間の垣根を超えて、あるいは企業間のサプライチェーンの枠を超えて、データ共有を行うことです。今日、直線型ビジネスモデルの多くでは、当事者は実際のところ、サプライチェーンを超えてデータ共有することに積極的ではありません。例えば、消費者は、保険会社に車両データを共有すればするほど、保険料が上がる可能性があることに不安を感じています。

循環型経済の究極的な目標は、資源を最大限に活用し、廃棄物を最小限に抑えることです。それぞれの垣根を超えてデータを共有することを奨励すれば、インダストリー5.0は、サプライチェーンの「見える化」や、生産ニーズの正確な把握に必要な情報を企業に提供することで、資源の最適化に貢献するはずです。そのためには、製造業でのテクノロジーの活用について、そして製造業全体が循環型経済にどのような影響を与えるのかについて、根本的な思考の転換が必要になります。

産業分野は、世界をより住みやすい場所にできるよう努めるべきです。より持続可能なものにするための措置を講じない限り、この目標を達成することはできません。より良い、より持続可能な未来を実現するために、インダストリー5.0は、循環型経済を基本的な理念としていくことが必要です。

 

まとめ

 

インダストリー4.0は、工場の生産性と効率性を飛躍的に向上させましたが、結局のところ、思い描いていたような「革命 」には至りませんでした。インダストリー5.0への機運が高まっている今こそ、インダストリー4.0から学んだ教訓を活かすまたとないチャンスです。

「インダストリー5.0は、魂を持ったインダストリー4.0である」とも言われています。この夢を現実のものにするには、人間中心の設計アプローチを大切にし、循環型経済を理念として循環型の生産モデルに移行し、より良い世界の実現に取り組む必要があります。過去から学び、知性と思慮をもってインダストリー5.0に取り組めば、今度こそ産業分野に真の革命が起こるかもしれません。